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『1Q84』読み始め [村上春樹]

 ひさーしぶりに、春樹ネタである。
 いやー戻ってくるまで長かったなぁ。
 
 ということで、ちまたを席巻している『1Q84』をついに購入した。なんでも現在、東京の印刷所・製本所は、この本の嵐が吹き荒れており、大わらわであるとの由。

 ベストセラーにはつい斜に構えてしまい、これまで流行っている最中に買ったことは、あまりない。『ダヴィンチ・コード』を読んだのは翻訳が出てから3年後だし、『超整理法』に至っては出版後10年以上経った昨年初めて読んだ。いずれもたいへん面白く読んだ。しかし、周りに話そうにも、皆、忘却の彼方である。やはり面白い本については、流行っているうちに読んで、皆と感想を共有したいもんだなぁと思ったりする。それに、そもそも村上春樹の新作に対して斜に構えると、何のために同時代作家を選んで読破してやろうと決めたか分からなくなる。といった理由で、今、嵐が吹き荒れているうちに読んでみようと思ったのである。

 現在、読んだのは上下全48章のうち、9章まで。約5分の1。紙の厚さにしておよそ8ミリ程度である。しかして、ほとんど読まずに語る状態ではあるが、今の時点で、自分の期待も含めて、いくつかメモを取っておきたい。

・ 『世界と終わりとハードボイルド・ワンダーランド』において、「世界の終わり」と「ハードボイルド・ワンダーランド」に分けて物語が同時進行したのと同様に、また、たしか『海辺のカフカ』とも同様に、本作においても二つの物語が同時進行する。このような方式が幾度も採られるということには、村上作品を分析する上でどういう意味があるのだろうか。あるいは、どの作家もやっている常套の手段として片付けていいものだろうか。

・ 主人公の一人は小説家の卵であり、この人物が文章を作っていく過程が克明に書かれている点は、個人的に非常に興味深い。なぜならそれが、普段自分が仕事で作文している作業過程によく似ていて、とてもよく分かったからだ。これまで、小説家というのは、自分の中から沸き上がる物語を自然に紙に書き留めていくような印象を持っていたが、実は違って、自分が作文する時と同じように、とりあえず打ち込んだ上で、それを何遍も推敲する、ということをするんであるなぁと思った。推敲、と一言でいうけれど、すなわちその過程とは、ひとまず題材とすべき事柄を羅列すること、その中で重要なポイントを抽出すること、それに相応しい言葉を選ぶこと、こなれた言葉を選ぶこと、そして最終的には自分というナマの状態を出さず、文章のみで事柄を伝えるようにすること。こうしたことが、明確に書かれていて、意を得た感じを抱いた。

・ 村上春樹は、『ノルウェイの森』において、リアリズム小説にチャレンジした、と語っている(出典はたしか『そうだ村上さんに聞いてみよう』とか何とかいう本だったと思う)。したがって、つまりはそれ以前の作品においては、ファンタジーというか、超常現象というか、とにかく空想的な事象(典型的には羊男という存在など)が描かれていて、それが春樹の作品の独特な雰囲気を醸し出しているのである。ということを踏まえると、本作においてオウム真理教取材の経験によって新興宗教を取り上げると聞けば、おそらく彼らの反社会性を批判するのであろうと推測してしまうのだけれど、考えてみれば、新興宗教あるいは都会派宗教のもつオカルティックな部分については、村上作品はファンタジーという表現において類似性を有しているのではないだろうか。つまり作風的には何ら新規で突飛な分野ではなかろうというふうに思う。(しかしすぐに注記しておくが、これは決して、春樹がオウムにシンパシーを抱いているということを言っているのではない。職場で話したら、そのように誤解された)。

・ 本作において宗教が描かれるのであれば、それがどのようなものであるかはまだ分からないが(何せ読み始めたばかりゆえ)、大江健三郎が『燃え上がる緑の木』で描いたような宗教的な物語を描けるかどうか、というのが個人的に注目したい点である。なぜなら、村上は『海辺のカフカ』で大江的な四国を舞台とした物語を書いているし、何かにつけ大江とは因縁の仲であろうはずだからということもある。が、それ以上に、あくまで個人的な問題意識として、この無宗教の日本という地において、日本語で、果たしてどのような宗教的物語が生み出され、受け入れられるか、ということに関心があるのである。これは個人的な、半ば期待である。もちろん、オウム真理教の反社会性、すなわちそれはこれまで村上作品で取り上げられてきた、旧日本軍や全共闘運動にも共通する日本の問題性でもあるのであるが、そうした日本に巣くう無責任構造、事なかれ主義、日和見主義等々を取り上げて、奥底で辛辣な批判を加えるのは大歓迎なのではあるけれど、ここでは一つ、宗教物語、というものを期待しておきたい。

 そういうことで、読むのが楽しみです。


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